布の物理特性設定ガイド¶

ガイド情報

所要時間: 約60分 | 難易度: 中級者向け | 重要度: 品質向上の鍵

このページの目的: Marvelous Designerでの布の物理特性を理解し、VRChatに最適化された美しく動く衣装を制作します。

このガイドで実現すること

✅ 自然で美しい布の動きの理解
✅ VRChatでの軽量化と品質のベストバランス
✅ 各種衣装タイプ別の最適設定マスター
✅ パフォーマンス問題の予防と解決

事前準備

Tシャツ制作ガイドなどで基本的な衣装制作を体験済み
Marvelous Designerの基本操作に慣れている
VRChatでのパフォーマンス概念を理解している

🎯 物理設定の重要性¶

VRChatにおける物理設定の影響¶

物理設定がVRChatに与える影響

パフォーマンスへの影響: - シミュレーション精度 ↔️ 処理負荷のトレードオフ - 他のユーザーからの見え方に直接影響 - フレームレート・安定性への影響

見た目への影響: - 布の自然な動き・重力感 - アバターの動作との協調性 - リアリティと美観のバランス

体験への影響: - アバター操作時の違和感の有無 - 他者との交流時の印象 - VRChat内での存在感

📐 物理特性パラメータの基礎理解¶

主要パラメータ一覧¶

Marvelous Designer Physical Property 主要項目

基本物理特性: 1. Particle Distance - シミュレーション精度（最重要） 2. Bend - 折り曲げ抵抗（布の硬さ） 3. Stretch - 伸縮抵抗（布の伸び） 4. Shear - せん断抵抗（布のねじれ）

材質特性: 5. Air Resistance - 空気抵抗 6. Density - 密度（重さ） 7. Thickness - 厚み 8. Friction - 摩擦係数

シミュレーション品質: 9. Self Collision - 自己衝突検出 10. Collision Thickness - 衝突検出厚み

VRChat最適化の基本方針¶

VRChat最適化の鉄則

軽量化優先項目: - ✅ Particle Distance: 8-12 (精度と軽量化のバランス) - ✅ Self Collision: 必要最小限に限定 - ✅ Simulation Quality: Medium推奨

品質保持項目: - ✅ Bend/Stretch/Shear: 自然な動きのために調整 - ✅ Density: 重力感のために適切に設定 - ✅ Air Resistance: 微調整で動きの美しさを向上

🧵 衣装タイプ別推奨設定¶

Tシャツ・カジュアルトップス¶

Tシャツ最適設定

基本設定 (Cotton Base):

Fabric Preset: Cotton
Particle Distance: 8-10
Bend: 0.2-0.4
Stretch: 0.1-0.2
Shear: 0.1-0.2
Air Resistance: 0.05-0.1
Density: 0.2-0.3

調整ポイント: - ゆったりフィット: Bend 0.2, Density 0.2 - タイトフィット: Bend 0.4, Density 0.3 - 薄手素材感: Thickness 0.5mm - 厚手素材感: Thickness 1.0-1.5mm

スカート・ドレス¶

スカート最適設定

フレアスカート:

Fabric Preset: Silk (軽やか) / Cotton (普通)
Particle Distance: 6-8 (動きの美しさ重視)
Bend: 0.1-0.3 (軽やかな動き)
Stretch: 0.05-0.1
Shear: 0.05-0.1
Air Resistance: 0.1-0.2 (風による動き)
Density: 0.15-0.25

プリーツスカート:

Particle Distance: 8-10
Bend: 0.3-0.5 (プリーツ保持)
Stretch: 0.2-0.3
Shear: 0.2-0.3
Air Resistance: 0.05-0.1
Density: 0.2-0.3

水着・タイトフィット衣装¶

水着・レオタード最適設定

基本設定:

Fabric Preset: Custom (専用設定)
Particle Distance: 10-12 (安定性重視)
Bend: 0.4-0.6 (フィット感)
Stretch: 0.3-0.5 (伸縮性)
Shear: 0.3-0.5
Air Resistance: 0.01-0.03 (最小)
Density: 0.3-0.4 (密着感)

特殊調整: - Self Collision: 無効化（貫通防止より軽量化） - Collision Thickness: 最小値 - Friction: 0.2-0.4 (肌との摩擦)

⚙️ 実践的な調整ワークフロー¶

ステップ1: ベースライン設定¶

調整開始時の基本手順

1. プリセットの選択: 1. 衣装タイプに近い Fabric Preset を選択 2. Cotton (万能), Silk (軽やか), Denim (硬め) 3. プリセット適用後、個別調整を開始

2. Particle Distance の決定:

高品質 (6-8): ドレス、重要な見せ場衣装
標準 (8-10): 通常のカジュアル衣装
軽量化 (10-12): 複数衣装レイヤード時

3. 基本シミュレーションテスト: - アバターに着用させて基本動作確認 - 歩行、手の動き、座る動作での確認

ステップ2: 細部調整¶

見た目と動きの最適化

Bend（硬さ）の調整:

0.1-0.2: 軽やか、風に舞うような動き
0.2-0.4: 自然な布の動き (推奨範囲)
0.4-0.6: やや硬め、形状保持重視
0.6+: 硬い布、特殊衣装用

Density（重さ）の調整:

0.1-0.2: 軽い布（シフォン、シルク系）
0.2-0.3: 標準的な布 (推奨)
0.3-0.4: やや重い布（デニム、厚手コットン）
0.4+: 重い布（コート、特殊衣装）

Air Resistance（空気抵抗）の調整:

0.01-0.05: 最小限（水着、タイトフィット）
0.05-0.1: 標準 (通常衣装)
0.1-0.2: やや大きめ（ふわっとした動き）
0.2+: 大きめ（ドレス、特殊効果）

ステップ3: VRChat最適化¶

パフォーマンス最適化の実践

Self Collision の最適化: 1. 基本方針: 可能な限り無効化 2. 有効化が必要な場合: - ロングスカート、ドレスの重なり部分のみ - 袖と身体の重なり部分（必要に応じて） 3. Collision Thickness: 最小値（0.5mm-1mm）

Simulation Quality の調整:

Low: 動作確認・テスト用
Medium: VRChat推奨設定
High: 最終調整・スクリーンショット用のみ

最適化確認項目: - Unity でのFPS影響チェック - VRChat SDK Performance Rating 確認 - Build & Test での動作確認

🎨 実用的な調整テクニック¶

問題別調整方法¶

よくある問題の物理設定による解決

「布が硬すぎる・不自然」:

Bend を下げる: 0.5 → 0.2-0.3
Shear を下げる: 0.5 → 0.1-0.2
Air Resistance を上げる: 0.05 → 0.1

「布が軽すぎる・浮く」:

Density を上げる: 0.2 → 0.3-0.4
Air Resistance を下げる: 0.1 → 0.05
Bend を適度に設定: 0.2-0.3

「動きが激しすぎる・暴れる」:

Particle Distance を上げる: 6 → 8-10
Bend を上げる: 0.2 → 0.3-0.4
Damping を有効化・調整

「貫通が多い」:

Collision Thickness を調整: 1mm → 2-3mm
Self Collision を部分的に有効化
Particle Distance を下げる (品質向上)

材質感別の表現技法¶

リアルな材質感の表現

シルク・サテン系:

Bend: 0.1-0.2 (しなやか)
Density: 0.15-0.2 (軽やか)
Air Resistance: 0.1-0.15 (風に舞う)
Friction: 0.1-0.2 (滑らか)

デニム・厚手コットン系:

Bend: 0.4-0.6 (硬め)
Density: 0.3-0.4 (重め)
Air Resistance: 0.05 (風の影響小)
Friction: 0.3-0.4 (粗い質感)

レザー・革系:

Bend: 0.6-0.8 (硬い)
Stretch: 0.4-0.6 (伸びにくい)
Density: 0.4-0.5 (重い)
Air Resistance: 0.01-0.03 (最小)

📊 設定管理とバージョン管理¶

設定の保存・再利用¶

効率的な設定管理

プリセットの作成: 1. 満足のいく設定が完成したらプリセット保存 2. 「File」 → 「Export」 → 「Physical Property」 3. 用途別ファイル名: 「VRChat_Tshirt_v1.phy」

プリセットの活用: - 衣装タイプ別プリセット作成 - プロジェクト間での設定共有 - チーム作業での設定統一

設定記録の推奨形式:

衣装名: カジュアルTシャツ
最終更新: 2025-08-08
Particle Distance: 8
Bend: 0.3, Stretch: 0.15, Shear: 0.15
Density: 0.25, Air Resistance: 0.08
VRChat Performance: Good
特記事項: 軽量化重視、Self Collision無効

✅ 物理設定チェックリスト¶

VRChat最適化物理設定完了チェック

基本設定: - [ ] 適切なFabric Presetから開始 - [ ] Particle Distanceが8-12の範囲 - [ ] Bend/Stretch/Shearが自然な範囲 - [ ] DensityとAir Resistanceのバランス調整完了

最適化設定: - [ ] Self Collisionは必要最小限 - [ ] Collision Thicknessが適切 - [ ] Simulation QualityがMedium以下 - [ ] 不要な高負荷設定を無効化

品質確認: - [ ] アバター基本動作で自然な動き - [ ] 座る・手を上げる動作で問題なし - [ ] 他のアバターとの干渉が最小限 - [ ] VRChat Build & Testでエラーなし

パフォーマンス: - [ ] Unity Scene ViewでFPS影響最小限 - [ ] VRChat SDK Performance Rating Good以上 - [ ] 複数衣装重ね着時も安定動作 - [ ] 設定内容を記録・保存済み

🔧 トラブルシューティング¶

物理設定関連の問題解決¶

「シミュレーションが不安定・爆発する」

対処法:

Particle Distanceを上げる: 6 → 10-12
Time Stepを調整: Edit → Preferences → Simulation
極端な値をリセット: 全パラメータを標準値に戻す
Self Collisionを無効化: 一時的に全て無効にして確認

「VRChatでパフォーマンスが悪い」

対処法:

Particle Distance増加: 最低8以上に設定
Self Collision最小化: 本当に必要な部分のみ有効
Simulation Quality下げる: High → Medium → Low
複雑な形状の簡略化: 不要なパターンを統合

「布の動きが期待と違う」

対処法:

段階的調整: 一つずつパラメータを変更して確認
リファレンス観察: 実際の布や他の作品を参考に
プリセット再試行: 異なるFabric Presetから開始
Air Resistanceの調整: 動きの雰囲気を大きく左右

🌟 次のステップ¶

物理特性設定をマスターしました！

次は、より詳細なシミュレーション設定や最適化テクニックを学びましょう：

パフォーマンス最適化ガイド →

または、学習した知識を活用して高度な衣装制作に挑戦：

ドレス制作ガイド →

📚 理解を深めるための補足¶

物理シミュレーションの科学¶

布の物理的特性: - 張力: 布が引っ張られる力への抵抗 - せん断: 布がねじられる力への抵抗 - 曲げ: 布が折り曲げられる力への抵抗 - 質量: 重力と慣性に影響する物理量

シミュレーションの近似: - Particle Distance = 解像度（細かいほど正確、重いほど高負荷） - Time Step = 時間刻み（細かいほど安定、重いほど高負荷） - Iteration = 計算回数（多いほど正確、重いほど高負荷）

VRChatの技術的制約¶

ネットワーク同期: - 物理演算結果は各クライアントで独立計算 - 精度が高すぎると同期ずれの原因 - 安定性・再現性が品質より重要

パフォーマンス制約: - 他のユーザーのPC性能への配慮必要 - モバイル・Quest対応も考慮 - 「良い」は「完璧」の敵

物理特性設定マスター完了！

おめでとうございます！VRChatに最適化された美しい布の動きを作る技術を習得しました。この知識は、どんな衣装制作にも応用できる重要な基盤です。

実際の制作で様々な設定を試して、あなた独自の「最適解」を見つけてください！